エロン・マルチネスの陶芸と燭台
- 2017.09.13
- アルテサノス(職人と工房) 民芸品 フォークアート クラフト
- メキシコの民芸, 生命の樹, ビンテージフォークアート, プエブラ, メキシコの陶器
まず9/8未明に起こったメキシコ南東湾岸部の大地震。
店主はイベント出店中の夕方、ネットのニュースで知りました。
日本と同じく活火山が多く地震大国メキシコ。
今回被害が大きいのは、オアハカとチアパスの間の街フチタンです。
余震も続いてるそうなので、早く収束することを願っています。
去る7月の米国買い付けで、最も収穫があったのが、“Heron Martinez Mendoza”
=エロン・マルチネス工房の陶器を数点発見できたことです。
![](https://blog.tombola11.com/wp-content/uploads/2017/09/DSCF6585.jpg)
今回は世界中のフォークアートファンを魅了し、今でも魅きつけられる
この作家に焦点を当てたいと思います。
エロンさんは元々一族の仕事がプランターなどを作る焼き物工房だったようで、
その跡を継いで製作を始めたようです。
![](https://blog.tombola11.com/wp-content/uploads/2017/09/Chuck2.jpg)
プエブラ州とオアハカ州の間の小さな街アカトランに工房はありました。
このブログの時に訪れたイスカールで偶然ひょんなことから発見したのが、
こちらのアクロバット・ヒューマン・ツリーオブライフ。
このような独特なスタイルの生命の樹を作り始めるのは、
同じ州にある陶芸の街イスカール・デ・マタモロスに影響された1950年代から。
それまでは小さな動物や天使や人物を作っていたそう。
そしてユニークかつ巧みな造形技術に加え、奥さんであるオリビアさんが
白い下地にカラフルな模様を描くようになり、かなりの人気作家になっていきました。
また姪のエルフェガさんも同じような絵付けをするようになります。
少し作風が違うのが面白いところ。
彼女たちのセンスに加え画期的だったのは、
当時まだ高価だったアクリル塗料を使用し、丁寧にバニスでコーティングしていた為
古い物でも色がちゃんと残っていることでしょう。
そのユーモラスな発想の造形と色彩豊かなペイントで、国内のみならず、
アメリカの観光客に人気のお土産品として有名になっていきました。
ジラードの「The Magic of people」に掲載されているフォークアートの中でも、
1968年時点で作家名が記載されているのは、
オアハカのアギラール一族、テオドラ・ブランコとエロン・マルチネスの3名のみ。
かなり著名だったことが伺えます。
そして利根山先生の「メキシコの民芸」でも
ファンタスティックな陶器として紹介されています。
上のような土を研磨した大きな作品は、姉エネディーナの作品で
これを受け継いで現在、唯一アカトランではエロンの甥っ子の
ペドロ・マルティネスが作陶を続けています。
![](https://blog.tombola11.com/wp-content/uploads/2017/08/KIMG2833.jpg)
エロン自身もプレヒスパニック時代の出土品に影響を受けた、
プリミティブな土器のようなタイプのものも製作していくようになります。
1970年代に彼の工房は隆盛期を迎え、アメリカの輸出向けにティファナやエル・パソといった国境の街を拠点に販売されていくようになります。
そのような経緯があり、メキシコ国内では作品は残っておらずアメリカ南西部に
現存するものが多いのでしょう。
しかしメキシコの古い民芸品の書籍には、必ずと言っていいほど作家名とともに
紹介されています。
このような枝がトグロを巻いたようなフォルムが特徴的。
そしてLAのコレクター、トリニーさんから聞いたお話では、
70年代後半に奥さんが亡くなってから、やがて姪や姉妹も着色をしなくなり、
土の色そのものを生かした作品ばかりになります。
![](https://blog.tombola11.com/wp-content/uploads/2017/09/DSCF6612.jpg)
1980年代半ばまで製作をしていたそうですが
引退後は息子さんが工房の跡を継いだそうです。
![](https://blog.tombola11.com/wp-content/uploads/2017/09/d4970deb2f521aaedad6f3b214dad29b.png)
しかし7年ほどしてパッタリ工房を閉めてしまったよう。
理由はわかりませんが、個人的な憶測では80年代のメキシコ国内のインフラと
93年の貨幣のデフォルトにいたる通貨危機が一つの要因ではないかと。
これは民芸品のみならず、多くの農業や手工芸品の生産者たちがこの時期に職を手放している
ことと関係していると思われます。
(この93年のデフォルトについてはただいま随意研究中です。)
エロンさんは1990年に亡くなったそうですが、
貴重な作品が今でも数多くアメリカで現存しているのは素晴らしいことです。
それは30年に渡り陶芸品を作り続け、たくさん仕事をしたという事の証でしょう。
![](https://blog.tombola11.com/wp-content/uploads/2017/09/heron-martinez-mendoza8.jpg)
メキシコシティやアリゾナ、ニューメキシコ,テキサスにある各民芸品博物館に
大きな作品は所蔵されているようです。
誰も真似できず真のオリジナルスタイルだったエロンさんは
古いメキシカンフォークアートを代表するグラン・マエストロに間違いありません。
(このブログ記事はコレクターによるファンサイト ☞www.heronmartinez.com
の情報を参考にさせていただきました。)
被災した街フチタンの映像と「泣き女」の歌。
-
前の記事
メキシコ買い付けジャーナル’17 【4/11 サンミゲル→DF】 2017.08.27
-
次の記事
メキシコ大地震のための募金のお願い 2017.09.21
コメントを書く